芽数を数えているとグリーンが見える 番外編

「怪しいものじゃありません!」

グリーンの調査をする時は、それなりに機械、道具を用意する。関東近辺での調査では、車に積み込んで、コースに乗り込む。
たまに、関西の方に出向く事もある。
車だと、経費がかかるし、体力もいるので、そういう時はキャリーバッグに器具を無理矢理詰め込み、電車で向かう。
宅配便で、コースに送るという手もあるのだけれど、確実に届くとは限らない。突然の気象の変化で、交通が麻痺したり、ここんとこの状況で、いつ火山が噴火するかもしれない。現地には道具だけ届きました、でも俺は足留めとか、その逆とか。
安全を期するには、めちゃ重たくても、バッグをゴロゴロと引っ張っていくしかない。
今までは、それで良かった。でも、今回の様な新幹線での事件があると、安心は出来ない。イヤなシナリオが頭に浮かんだ。

大阪のゴルフ場に行くときは、早朝、千葉県の奥から高速バスに乗って東京まで出て、すぐに7時台の新幹線の自由席を目指す。1~3号車だから、ホームに出てキャリーバッグをゴロゴロと騒々しく、小走りに進む。大抵、2人掛けの席を確保できる。ダメなときは一本遅らせる。
バッグには一般の人にはまるで役に立たないものしか入っていないし、メチャ重いから盗られる心配はないけど、念のため床の上に置いて、足の間に挟んで行く。

東京駅を発車すると、すぐ品川駅。それなりに乗客がある。席が取れない人が、ゾロゾロと前の車輛へ歩いてくる。俺の隣は空いているので、女性が「いいですか?」と声を掛けてきた。否応は無い。邪魔にならないように、バッグを挟んだ足をなるべくコンパクトに寄せる。
「棚に乗せたらいいんじゃないですか?」
『重たくて、無理です。』
一瞬、女性の表情が変わったような気がした。ショッピングバッグを席に残して、後ろの方へ行った。
さて、読書でもしようか。たまには勉強しなくては。
「ちょっと、よろしいですか?」
あ、車掌さんだ。検札は新横浜からじゃなかったっけ?
胸ポケットの切符を出したら、受け取らず
「そのお荷物の中は何ですか?」
『何ですかって、その、道具なんかですが・・・』と把手を掴んだら
「触らないで! こちらに出てください。」
あれ、もう一人いる。その後ろにさっきの女の人が恐い目つきで俺を見ている。
「新横浜で降りていただきます。」
『いや、その、私、大阪まで行くんですけど』
「話はあとで。こちらへ」
『私、怪しいものじゃありません。』
言われるままに通路を歩く。俺の事をスマホで撮影するヤツがいる。
なんで、俺を撮るんだ。
新横浜の駅で、部屋に通されると、刑事や警官がいた。どういう事だ?
「身分を証明するものはありますか?」
運転免許証を出す。今日は必要が無いからと、名刺は持って来ていない。営業するわけでもないので、作業服だし。
「職業は?」
会社の名前を言い、電話番号を教える。警官が電話をする。
「会社の方、誰も出ませんね。」
当たり前だ。始業の9時までには、まだ時間がある。
「自宅の方も、誰も出ません。」
この時間だと、家族は全員出ている。
「切符は大阪府内までか。何をする心算だったんだ。」
『ゴルフ場に行って、グリーンの調査を。』
「そこに電話してみろ。」
2015-07-06 器具 008 (640x480)「この男の予約は入っていないそうです。」
『私は、ゴルフをするんじゃなくて、管理する側のお手伝いをするわけで・・・』
「こんな本を持っていました。」
「『イスラム教の歴史』だと。向こうに仲間がいるのかもしれない。手配しておけ!」
読むのなら小説にしておけば良かった。どんどん悪い展開になって行く。

刑事が警官に指示を出す。「バッグを開けろ。慎重にな。」
バッグを開けると、器具をくるんだディンプルシートや、新聞紙が見える。それらをはずしながら、器具を取り出す。
2015-07-06 器具 002 (640x480)「このハンマーは何だ。」
『あ、この透水管を打ち込むのに使います。』
「透水管?」
『ええ、透水速度を測るのに。』
「透水速度?」
で、ストップウォッチを手に取ったら
「そこに置け! 金属製の管が3本にストップウォッチが3個。一体、何を企んでいる!」
『いや、グリーンの排水がいいかどうか計測するわけです。』
「グリーン?」
『ゴルフ場のグリーンです。』
「そんなもの測って意味があるのか?」
『雨が降って、水浸しってのは具合悪いですから。ここに水入れて、時間を測って・・・』
「怪しい。爆薬でも詰める心算じゃないだろうな。一応聴いておこう。この3つは何だ。」2015-07-06 器具 004 (640x480) 2015-07-06 器具 003 (640x480)
『これは、硬さを測ります。』
「硬さ?」
『はい、この錘を落とすと数字が出るんで、硬さの度合いが分かります。』
「なんの意味がある。」
『ボールの跳ね具合とか。』
「下らん。」
そして、俺が山中式の硬度計をケースから取り出し、手に取ったら
「すぐに降ろせ。」
確かにこの状況で先の尖ったものはマズかった。

刑事が、水分含量を測る器具を取り上げた。2015-07-06 器具 006 (640x480)「この鋭利なのは、何だ。」
『これを地面に差し込むと、センサーで水分の%が分かります。』
「それが何だ。」
『その、乾き具合とかで、芝の状態が・・・』
「さっきから、意味の無い事ばかり言っているな。本当の事を話せ。」
警官が、芽数採取器を取り上げて2015-07-06 器具 007 (640x480)
「ここに把手のついた金属製の武器のようなものがあります。」
「一体、何に使うんだ?」
『ああ、これは芽数を採取するのに』
「なんだ、それは。」
「ですから、『芽』を抜き取るのに使います。」
「何、『眼』を抜き取る?! 凶器携帯罪で逮捕だ!!」
『私は怪しいものじゃありません!』

俺が車掌さんに付き添われて通路を歩いている映像がニュースで流れた。有る事無い事が報道された。
て、事になったら、どうしよう。

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